シナリオ名《E.H.に捧ぐ》


1.GMさまへ

これは「デッドラインヒーローズRPG」のシナリオです。登場するヴィラン組織は愛の宿り木(まるき様作)です。

難易度は中程度と思われます。ご使用、ご改変はご自由にどうぞ。動画化に関してはご相談ください。



2.事前情報

リトライ:2

初期グリット:3

チャレンジ:2

クエリー:3

人数:3人

時間:ボイスセッションで3時間程度

トレーラー(任意):鐘の音が聞こえる。魂を震わせるお告げのような音が。それは解放の福音か、はたまた悪魔の声か。耳を塞ぐのもいいだろう。うっとりと聞き入るのもいいだろう。もし耳を塞がずに、聞き入ることもしなければ――キミの高潔さはE.H.に捧げられるだろう。



3.エントリー

【PC1】

 キミはシーグルという名のヒーローと共に、近頃巷を騒がせている大量殺人事件を追っている。なかなか犯人の尻尾が掴めず、被害者は増える一方だ。

「犯人の行動範囲は推測できたが……人手が欲しいな。このままだと後手に回ってしまう」

 シーグルは疲れた声でキミに言った。



【PC2】

 キミは夜の街を歩いている。物騒な事件が起きているためだろう、心なしか人通りが少ない。どこからか屋台のラーメンの匂いがする。

 キミが思い切り夜の空気を吸い込んだ時、ほのかな血の臭いを感じた。臭いの元に向かって走ると、一つの廃墟にたどり着く。中には死体の山の上に立つ、巨大な鳥人がいた。



【PC3】

 キミは本屋に買い物に来ている。店頭には今話題の「E.H.に捧ぐ」という本が平積みになっている。とある家庭が崩壊していく様を描くことによって、心理学をわかりやすく解説した小説だ。

 キミが何の気なしにその本を手に取った時、背後から声をかけられた。

「ヒーローの方が拙作を手に取って下さるとは光栄です」

 振り返ると、そこにいたのはDr.ココロ。ヴィラン組織「愛の宿り木」の幹部だった。



4.シナリオの概要

 二等星ヒーローのシーグルは、自覚のない二重人格者だ。彼は自身を記憶障害だと思い、カウンセリングに行った。その際に誤って「愛の宿り木」の本部に入ってしまった(有名な相談所の近くに本部を置くことは、彼女らの常套手段なのだ)。

 シーグルは愛の宿り木によって洗脳されかけたが、もう一つの人格「ネヴァン」に庇われた。洗脳を受けたネヴァンは絶望し、大量殺人を犯すようになる。シーグルは自分とは気づかないまま、PC1と共にネヴァンを追っている。

 愛の宿り木はシーグルの人格をも矯正しようと魔の手を伸ばす。ヒーローたちは惨劇に終止符を打てるのか。

※E.H.とは「ジキルとハイド」の登場人物、エドワード・ハイドのことである。GMは作品を知らなくても構わない。



5.NPC

・シーグル:テクノマンサーの二等星ヒーロー。28歳の男性。自作の機械を背負い、マスクを被って活動している。本人も気づいていないが、サイオンの血が入った二重人格者である。もう一つの人格に代わっている間は意識がなく、記憶にも残らない。



・ネヴァン:シーグルのもう一つの人格。ネヴァンの人格が表に出ると、鴉の鳥人のような姿に変貌する。シーグルの人格が表に出ている時も意識がある。本来は忍耐強く面倒見のいい性格だが、洗脳により自身の境遇や社会への憤りが抑えられなくなっている。データはシナリオ内に記載。



6.シナリオ本編

《導入フェイズ》

【イベント1:捜査】

・登場キャラクター:PC1

・場所:郊外



状況1

 キミはシーグルという名のヒーローと共に、近頃巷を騒がせている大量殺人事件を追っている。なかなか犯人の尻尾が掴めず、被害者は増える一方だ。

「犯人の行動範囲は推測できたが……人手が欲しいな。このままだと後手に回ってしまう」

 シーグルは疲れた声でキミに言った。彼はテクノマンサーであり、明晰な頭脳とデータ分析システムを持っている。

 犯人は犠牲者を一箇所に溜め込む癖がある。今までに2箇所、無残な光景と化した場所が見つかった。



状況2

 G6の手を借り、できる限り多人数で分かれて捜査することになった。それでも十分な戦力とは言えない。唯一まともに戦えるキミとシーグルは、別々のチームを指揮する。辺りは次第に暗くなっていく。



エンドチェック

・PC1が事件を把握した

・PC1がシーグルと別れた

解説:シーグルが憔悴しているのは記憶喪失に対する不安や、寝ている間にネヴァンが活動しているせいもある。



【イベント2:漆黒】

・登場キャラクター:PC2

・場所:街中



状況1

 キミは夜の街を歩いている。物騒な事件が起きているためだろう、心なしか人通りが少ない。どこからか屋台のラーメンの匂いがする。お腹が空いたのか、懐かしく思えたのか、キミが思い切り夜の空気を吸い込んだ時、ほのかな血の臭いを感知した。

 臭いが強い方向に向かって走ると、一つの廃墟にたどり着く。ヴィランに破壊された後、撤去が済んでいない建物だろう。辺りの建物も似たようなもので、薄暗く静かだ。ただ、酷い死臭がする。

 キミが警戒しながら中に入ると、積み上がった死体の上に、鴉のような巨大な鳥人が立っていた。

 血まみれの鉤爪と嘴を見て、キミは確信する。これが最近起きている大量殺人事件の犯人だと。

「悪いことは言わん。立ち去れ。やっと残酷な衝動が落ち着いたところだ」

 鳥サイオンは耳障りな甲高い声で命令する。

「私はネヴァン。報復する者だ」

 キミにはネヴァンがにやりと笑ったように見えた。



状況2

 ネヴァンは割れてガラスがなくなった窓から飛び去ってしまった。



エンドチェック

・PC2が廃墟の中を見た

・PC2がネヴァンに会った

解説:イベント1と2に登場する街は別のものだ。距離はやや離れている。イベント1の後、PC1と別れたシーグルはネヴァンに意識の主導権を奪われたのだ。



【イベント3:遭遇】

・登場キャラクター:PC3

・場所:本屋



状況1

 キミは本屋に買い物に来ている。店頭には今話題の「E.H.に捧ぐ」という本が平積みになっている。とある家庭が崩壊していく様を描くことによって、心理学をわかりやすく解説した小説だ。

 キミが何の気なしにその本を手に取った時、背後から声をかけられた。

「ヒーローの方が拙作を手に取って下さるとは光栄です」

 振り返ると、そこにいたのはDr.ココロ。ヴィラン組織「愛の宿り木」の幹部だった。



状況2

「長らく研究をしていると、どうも成果を発表したくなりましてね。研究者のサガでしょうか」

 ココロは自著を一冊購入すると、キミに手渡した。

「ここで出会えた記念です。よろしければぜひ、お読みになって下さい」



エンドチェック

・PC3が本屋に行った

・PC3がココロに会った

解説:ココロは筆名を使っている。このイベントでココロを捕まえることはできない。



《展開フェイズ》

【クエリーイベント1:失策】

・登場キャラクター:PC1、PC2(PC1視点)

・場所:街中



状況1

 キミは他の捜査班からの連絡を受けて、PC2の元に向かった。シーグルの読みは外れたようだ。到着したのは彼が被害を想定していなかった地域だったのだ。

 遺体は死後間もないものから、三日ほど経っているものまで様々だ。犠牲者の山はどこか鳥の巣のようにも見える。

 キミが到着したのとほぼ同じタイミングで、シーグルがやってくる。痛ましい光景を見て、彼の顔から血の気が引いていく。

「俺のプロファイリングが間違っていたんだ。俺が余計なことを言わなければ、幾人か助けられたかもしれないのに……犯人逮捕だって……」

 シーグルはがっくりと膝をつく。

「……俺はこの件から外れるよ」



状況2

 失敗したとはいえ、こんなことを言うのは彼らしくない。今回ばかりでなく、最近のシーグルは弱気になっているように感じる。



エンドチェック

・PC1がシーグルと会話した

・グリットを1点得た

解説:シーグルたちの話を聞いているネヴァンは簡単に裏をかくことができる。シーグルは大事な場面で意識を失っていたため、ヒーロー活動に支障をきたすと感じている。彼がPC1に悩みを打ちあけようと決意したところで、無慈悲に次のイベントへ移行する。



【クエリーイベント2:潜在】

・登場キャラクター:PC3

・場所:本屋



状況1

「『ジキル博士とハイド氏』をご存知でしょう?聡明なジキル博士は薬品を摂取することによって、自分の中の善悪を分離し、悪の別人格を出現させました。それがハイド氏です。彼は別の顔を持つことによって抑圧や道徳から解放されたのです」

 ココロは滔々と語り続ける。

「彼――エドワード・ハイドにそっくりなクライアント様を参考にして書いたのが、その本です。もっともその方は、ご自身でも気づかないうちに超人種の血が目覚めて、もう一つの人格が生まれたようですが……。現在はヒーローとヴィラン、二つの顔を持っていらっしゃる。面白いでしょう?」

「あなたの中にも抑圧された暴力性があるのではないですか?縄張り争いをし、獲物を奪い合う。それは人の本能です。解放したら、さぞや気持ちいいと思いませんか?」

 彼の瞳は不思議に冷たく光っている。



状況2

 G6から緊急応援の要請を受ける。現場に行くと、PC1、2とシーグルがいる。



エンドチェック

・PC3がココロと会話した

・PC3が廃墟に向かった

・グリットを1点得た

解説:ココロの言うクライアントとはシーグルのことである。このイベントでココロを捕まえることはできない。



【クエリーイベント3:幸福】

・登場キャラクター:全員(PC2メイン)

・場所:廃墟



状況

 遺体発見現場にPC3が駆けつける。キミたちは忙しなく情報を交換したり、現場を調べたりするだろう。

 そんな時、愛の宿り木の幹部であるユーアーハッピーが現れた。窓から侵入したハッピーはふわりとシーグルの横に降り立つ。

「やっほ〜〜!みんなハッピーしてるかな?うんっ、ハッピーそうだね〜〜!ぼくもハッピーだよ☆」

「その人、僕らの大事なクライアントさんなんだー☆ちょっと借りてくね〜〜〜っ!」

 ハッピーは呆然とするシーグルを掴む。不吉な羽音がし、巨大なオウムが死体の山の上に着地する。幹部の赤羽だ。キミたちが止めても、ハッピーは悪びれずに言う。

「なんで止めるの〜〜?この人はもっとハッピーにならなきゃいけないし、この人の中の鴉さんはもーっとハッピーなことしなきゃじゃん!!」

「僕、ずーっと見てたんだ〜〜〜☆おにーさんより、おにーさんの中にいる鴉さんのほうが断然ハッピーだよねぇ?あっ、覚えてないんだっけ!」

 シーグルは見えない剣で刺されたかのように身を硬直させた。

「俺が……?」

 混乱するシーグルをよそに、ハッピーはPC2に向き直る。

「ほらっ、教えてあげなよ☆ヒーローさんは見てたでしょ?鴉さんのハッピーな顔!こーんなに人を殺しちゃうなんて、僕たちが助ける前は、相当我慢してたんだろうねぇ☆」

 ハッピーは犠牲者の山をしげしげと眺めて言った。



エンドチェック

・PC2がハッピーと会話した

・PCがネヴァンの正体を知った

・グリットを1点得た

解説:シーグルがネヴァンと同一人物だとわかるイベントだ。PLが混乱するようなら、GMから解説を挟んでもいいだろう。



【チャレンジイベント1:誘拐】

・登場キャラクター:全員

・場所:廃墟



状況1

 赤羽はシーグルを掴んで飛び立ってしまう。シーグルは自身の行いにショックを受けて、抵抗する気力を失ったようだ。ハッピーもひらりと舞い上がり、去ろうとする。

 キミたち以外にも捜査チームの数人がいるが、誰もヴィランに対抗するだけの力を持ってはいない。



◯チャレンジ判定:同一のPCが複数の判定を試みてもよい。

・判定1.ハッピーと赤羽を追いかける …<操縦>or<運動-20%>1回 

・判定2.赤羽を打ち落とす …<射撃>or<霊能>1回 ※移動適正:飛行があれば<白兵>でも可

・判定3.ハッピーからの攻撃に耐える …<意志>or<運動>1回

失敗:シーグルの人格さえも愛の宿り木によって洗脳されてしまう。チャレンジイベント2の判定全てに-20%の修正。



状況2

 赤羽の鉤爪から離れたシーグルの体は、めきめきと大鴉の姿に変化する。彼はネヴァンになって飛び去ってしまった。

 



【チャレンジイベント2:救出】

・登場キャラクター:全員

・場所:渋谷



状況1

 あれから捜索を続けたが、シーグルの行方はようとして掴めなかった。数日後、渋谷の街中で鴉の怪物が暴れているという知らせを受ける。

 キミたちが駆けつけると、案の定暴れていたのはネヴァンだった。正体を知られて自暴自棄になったのか、愛の宿り木に捕まって更なる洗脳を受けたのか――?なんにせよ、このままにはしておけない。

 逃げ惑う人々の中にココロが立っている。彼はネヴァンを観察し、記録をつけているようだ。



◯チャレンジ判定:同一のPCが複数の判定を試みることはできない。

・判定1.人々を避難させる …<心理>or<作戦>1回

・判定2.ネヴァンの中のシーグルに呼びかける …<心理>or<交渉>1回



状況2

 愛の宿り木の会長、オールマザーがぞろぞろとクライアントを引き連れて現れた。

「あらあら……せっかくこのお方が自分らしく生きられるように、お助け致しましたのに……。彼の幸せを邪魔するのですか?」

「ここにおられるクライアント様がたは、この方のお陰で私たちを頼っていらしたのです。今ではとっても幸せに過ごしておいでです。これって、幸せの循環だと思いませんか?」

 マザーは慈愛に満ちた笑みをキミたちに向ける。

「あんたが私の亭主を殺したんだね!」

「娘を返して!」

 怨嗟の声が刃のごとくネヴァンに向けられ、怒号に変わっていく。放っておけば、ネヴァンはシーグルもろとも殺されてしまうだろう。



・判定3.クライアントを抑える …<白兵>or<射撃>or<霊能>1回

失敗:ネヴァンは一命を取り留める。決戦フェイズで「ネヴァン」がエネミーに加わる。

解説同一のPCが複数の判定を試みることはできない」という条件には判定3も含まれる。クライアントたちはマザーの洗脳によって、憎しみが暴走してしまっている。また、集団心理に飲まれているため、説得することは難しい。



《決戦フェイズ》

【バトルイベント:鐘声】

・登場キャラクター:全員

・場所:渋谷



状況

「ふふふ、おいたが過ぎますわ……でもそれは、あなたがたが幸せでないからですのね」

 子供を諭すようにマザーが言う。

「恨み、嫉妬、いらだち、軽蔑、嫌気……あなたがたも覚えることがあるでしょう?大事なはずの人にさえ……些細な感情と軽んじて、抑えているのではないですか?」

「もう大丈夫です。あなたがたも、私とオハナシ致しましょう?そうすればきっと、心が解放されて楽になります。あなたがたももっと素晴らしいヒーローになれますわ。感情の発散があってこそ、人に優しくなれるのですから……」

 マザーが手を広げると、控えていたココロが側に立つ。倒れたクライアントの中から、数人が歯を食いしばって立ち上がる。

 さあ、戦闘だ!



解説:敵はオールマザー、Dr.ココロ、クライアント×4体。チャレンジイベントの結果によってはネヴァン。PCが成長しているならば、ユーアーハッピーをバトルに加えてもよい。

PCはエリア1か2に配置。マザー(とハッピー)は4、ココロとクライアントとネヴァンは3に配置する。



戦術

・オールマザー:序盤はエリア4から動かず、射程が届くパワーを使って攻撃する。自身のライフが半分を下回ったら、《悪魔の歌を使用する。

・Dr.ココロ:まずプラシーボ効果を使用し、射程内のPCに基本攻撃を行なう。《パーソナルスペース》《学習性無力感》で妨害するのも忘れずに。

・ユーアーハッピー:天使の輪happy☆beamで攻撃する。自身が攻撃された際はすかさず罪悪感の押し付けを使う。

・クライアント:射程内のPCに自暴自棄》と《泣き言を使用する。

・ネヴァン:ラウンド開始時に咆哮》で妨害する。凶暴化した後は基本攻撃を行なう。自身やココロ、クライアントの射程が足りない場合は、を使用して共に移動する。



■ネヴァン

ライフ:16 サニティ:16 クレジット:12

肉体:30 白兵60% 生存40%

精神:20 心理40%

環境:15

移動適正:地上、飛行

※パワーはサイオン(R1)の「凶暴化(P114)」「翼(P116)」「咆哮(P117)」の3つを使用する。



《余韻フェイズ》

下記はヒーローが勝利した場合の描写。



 ネヴァンはぐらりと倒れ、病院に運ばれていった。数日後、ネヴァン――というよりシーグルの意識が戻ると、ネヴァンの人格は消えてしまっていた。さらに、彼の下半身だけ鴉のものに変わっている。

「俺、記憶が度々抜け落ちることがあって、悩んでいたんだ。有名なカウンセラーに予約を入れたんだけど、間違えて愛の宿り木の本部に入ってしまったんだな……。本当に迷惑をかけたよ。被害者とその遺族にはなんと言えばいいのか、一言ではとても表せない」

「ネヴァンは俺を助けてくれたんだと思う。奴がいなかったら、俺が洗脳されていただろう。もっと早くに気づけばよかった……」

 シーグルはこれから裁判にかけられるだろう。決して容易に済むはずはない。

 ことによってはココロの書いた本は回収され、プレミアがつく。

以下自由。下記は全員の結末の例。PCは成長点(最大9点)を得る。



全員の結末

 事の始まりは小さくとも、失ったものは大きい。一人の男の些細な悩みが、多くの犠牲を生み出すこともある。キミたちの持つ様々な顔。気が向いたら眺めてみるといい。いつ悪魔に付け込まれるかわからないのだから。

「E.H.に捧ぐ」終



←戻 作者:うえ/(@ORC_ue)

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